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2010年05月25日(Tue) 【兆候】 「いい天気。といって晴れを想像する人は多いと思うのだが、果たしてそれは万人に通用する話し言葉なのかと問われれば答は否だ。」 「何？そんなことをいちいち気にかけていたら会話が成立しない？はは、ずい分と最近を生きているんだね、君は。」 僕がある男にそう言われたのは少し前の夜だった。 ある男と称したことには何らかの意味があるのかもしれないが、特にそんな特殊なものはない。ただ、ある、通りすがりといっても過言でないほど、僕にはほとんど関わりのない男なのだから。 さて、そんな男、つまり、夜に見知らぬピーポーに気安く話しかける勇気を所持している男が、一体僕に何の用だったのだろうか。 回想。 ぼくはある夜、寝付けなかったというベタなシチュエーションのもと、散歩に出かけた。それほど遠くまで行く気はなかったし、実際、それほど遠くまで行っていない。が、遠くへ行ったような気がした。 それは家を出てから10分ほど経った頃合い、誰もいない路地、長い路地、向こうを見れば100メートルほど続いている、一般にはあまり見ない、路地。 その向こうのほうから、人間が1人、歩いてくるのが見えた。そして確認できた。男だ。 なぜなら、鼻の下に、それなりのヒゲが生えていたのが視認できたからだ。もしかして、女性が仮装パーティに行く途中なのかもしれない、と、ほんの一瞬考えたが、恐らくそれはないだろうということ。 その男は80メートルほど先から、わずか10秒足らずで、歩いて、僕の目の前にまで接近してきていた。 僕は戸惑う。焦る。 男はそのまま、唐突に、何の前振りも前置きも脈絡もなく、突然言い出した。 「いい天気。といって晴れを想像する人は多いと思うのだが、果たしてそれは万人に通用する話し言葉なのかと問われれば―･･･以下略」 ただ、それだけ言って。僕の答えなど一切合切期待もせず、待たず、そのまま去って行った。 僕が振り返った時には、もうすでにそこには男の姿はなかった。テレポートでもしたのだろうか。ぼくはその、男が一方的に話をしていた30秒ほどの間、どこか異次元の空間にいるような錯覚を憶えた。気持ち悪かった。吐き気がした。それしか覚えていない。 僕は一応、高校3年生という身分をお持ちなので、形上、学校に通わなければならない、こともないが、最近ではほぼ義務教育同様だからな、学校に行く必要がある。 その日の夜はその男のことを考えて、ほとんど睡眠は摂れなかったのだが、意外なことにも次の日の学校での授業中は眠くならず、その日の夜にぐっすりと眠った。 回想終了。 さて、ここまででずいぶんと長いストーリーになってしまったが、大体の状況は掴めたのではないだろうか。 本音を言うと、僕はあんな男のことは、不覚で皮肉にも1日考え込んでしまったが、今となってはそれほど気にしてはいないのだ。ただの変わり者のおじさんだったと考えれば、何の問題もないではないか。世の中には色んな人がいる。突然知らない人に話しかける人がいても、人間が自力で空を飛ぶことよりは不思議ではないはずだ。 そう、思い込んでおいた。 今日も学校が終わった。いつもどおり、くだらない、飽き飽きした学校生活のうちの1日が、何のハプニングもなくごく普通に自然にあっさりと、終わりを告げた。時刻は5時半くらい。もちろんPMである。いくら定時制の学校でも、朝の5時に下校というのもなかなか珍しいだろう。まあ、僕の通う学校は普通の国公立だけれど。 帰り道はいつも一人。友達とは帰らない。疲れるから。わざと友達と帰る時間をずらすテクニックを、僕は使えるんだ。 今日もそのテクニックを駆使して、友達はとっくに帰ったあとの下校となる。 いつも通りの下校道を、いつも通りに、もしかしたら歩幅まで同じなのではないかと思うほどいつも通りに歩する。 そしてあの日の夜、例の男に出会った路地に入った。 なんだかデジャヴだ。別に夜というわけでもないのに、空が暗いような気がする。そして、また前から男がやってくるような気がする。 「嫌な予感。」 呟いて、少し嫌気は差したものの、顔を左右に振って、その路地を少し小走りに移動する。 100メートルってこんなに長かったっけ。確か、体力テストでは15秒くらいで走れたはずだから、小走りでは25～30秒でゴールインできるはずなのだが。そして数秒後、ぞっと寒気がしたと思ったら、その路地を抜けていた。ホッと一安心した自分を若干嫌悪したが、何に嫌悪したのか具体的に分らなかったので、放っておいて、家に向かう。時刻は6時。言うまでもなく午後の6時。家に到着。両親はまだ帰っていないようだった。家の中がガランとしている。いつも思うのだが、人がいないというのは気配で分かるもんなんだな。人が1人いるだけで、随分と感じるものが違う。人間の力ってすごいなぁ。それは果たして、人に察せられるほどの力を放つ方が凄いのか、それとも1人の人間の存在感を感じ取る方が凄いのかは分らないけれど。 そんなことを考えながら、自分の部屋に向かった。自部屋。僕の部屋は２階。この家は２階。つまり僕の部屋は最上階。「回りくどいなぁ」自分で自分の首をしめている。あぁ苦しい。 そしてドアノブを引いて自分の部屋に入ってみた。 嫌な予感が的中したようだった。 そこには あの日の夜の男が、堂々と座り込んでいた。 00:31 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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