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2010年05月25日(Tue) 【兆候<２>】 さて。 まずどこから突っ込めばいいのか考えものだ。 すると男は言う。 ｢１つだけ質問させてやる｣これは困った。この状況で最も優先すべき質問は何だろう？｢ここは日本だから､土足で家に上がってはいけないのでは？｣だろうか｡いや､違う。まず､他人の家に勝手に上がり込んでいるというのが､決定的に間違っているではないか。そんな平凡な､間の抜けた質問をしてどうする。 ｢１０､９､８､７｣ 男はカウントダウンしていた。今日は大晦日ではないというのに。 僕は迷いに迷った末､質問内容を決め､繰り出した。 ｢ご職業は何でしょう？｣ 別にギャグで言ったわけではない。警察だって､取り調べの時はまず職務質問からするだろう？そういう魂胆なのさ｡ ｢それだけか？｣ 男は言う。 ｢あなたが１つだけと言ったんでしょう｣ 僕は答えた。 ｢私は神龍(ｼｪﾝﾛﾝ)か！｣ ｢……。｣ こういうノリの人なのだろうか。だとすれば､僕はこの人が苦手だ。 ｢では､本題に入ろう｣ ｢僕の質問は無視ですか？｣｢失敬な。ちゃんと聞いただろう？答えるとは言っていない。｣ 小学生みたいなへ理屈を淡々と述べる人だった。 益々苦手だ。まぁいいや。どうせニート､良くてフリーター辺りなんだろう。 ｢ところで､本題とはなんです？僕､事前指導とか受けてないですよ｣ ｢はは､何言ってるんだい？何事も本題とはいきなり始まるものさ。いきなり始まってあっさり終わる。大事なとこなんて､大抵そんなものさ。君は学生かな？では分かりやすく､学力テストで考えてみるといい。君はテスト前に勉強をするだろう？まぁ､君に言わせれば事前指導というやつか？しかしそれはすでに事前ではなくて本題に入りかけている。事前と本題のマージナルなのさ。そしてテスト本番。つまり本題だ。いきなり始まって､あっという間に終わるだろう？そんなもんなんだよ｣ ｢そちらの言動に対する質問だったら､しっかりと答えてくれるんですね｣ ｢まぁな｣ ｢安心しました｣ ｢そりゃよかったな｣ 過言なのか寡言なのかよく分からない人だなぁ。 ｢ところで､本題の説明は分かりましたけれど､具体的な内容､というか､あなたの目的は何なんですか｣ ｢はは､目的？何事も目的がなくちゃダメなのかい？そもそも目的ってのは──｣ ｢ごめんなさいやっぱいいです｣ 長くなりそうだったので､遮ってみた。 ｢まぁ､俺がここに来たのは他でもない｣ ｢他しかないんですが…｣ ｢君に頼みたいことがあるからだ｣ 今度は僕が遮られた。 これでお互い様だ。恨みっこなし。 ｢頼みたいこと？僕､人から頼まれるようなことなんて､惑星の数から彗星の数を引いたくらいしかないですよ｣ ｢マイナスじゃねえかよ､しかもわかりにくい｣ 突っ込まれた。この人はボケとツッコミのどちらもできるのだろうか。万能ならぬ二能だ。 ｢で､具体的にはどういった内容で？｣ ｢うーん､ある人物を探してほしい｣ ある人物､ねぇ。人捜しという仕事が探偵にはあるようだけれど､日本全国１億3000万人の中から１､２人を見つけるというのは､人間業ではないと思うのだが。何かトリックがあるの？ ｢その人物を探して見つけたら､その場で殺してほしい。できれば絞殺とかで｣ ｢あなた､ボケが得意なんですね､感服いたしますよ。でも､こういうシリアスな場面でそういうのは止めてくれませんか？｣ ｢いや､真剣な話だ｣ ｢そうですか｣ 絞殺。僕は生まれてこの方､絞殺という行為を犯したことはない。殺という漢字が入る熟語でやったことのある行為といったら<殺虫>くらいだ。 参ったなぁ。しかも絞殺って犯罪じゃないか。そんなこと､僕にはできっこない。できるはずがない。 ｢すいません､お受けしたいのは山々なんですけれど､さすがにこの歳で国のルールに反するのは避けたいです｣ ｢そうか､まぁ､こんな重い依頼をいきなり､学生であるお前に頼んだのが間違いだったな。すまん。では､また別の者に賜らせるとするよ。｣ ｢はぁ､そうですか｣ よく考えたら､どうして僕はこんな得体の知れない､完全無欠の変態野郎の頼みなんて受けてるんだろう。うーむ､どうもむこうのペースに乗せられ気味だ。 ｢今日は失礼したな。また明日､別の依頼を持ってくるよ。今度はもっと軽いのをな。｣ 言って､男はまたテレポートのようなスピードで去っていった。 僕はただ､そこに茫然と立ち尽くすしかなかった。 ｢ただいまー｣ 妹を含む､家族が帰ってきたようだ。 01:24 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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