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2010年05月25日(Tue) 【兆候<３>】 家族が帰ってきたのは午後6時半頃、いつも大体このくらいだ。母親は、同時に夕食の買い物を済ませてくるため、7時すぎには夕食を食べているというのが、我が家の伝統的な慣習だ。 今日もまたいつも通りのいつも通りに夕食のお時間が訪れる。今日の晩御飯は何だろう。 席についてみた。 テーブルの上に皿がある。 皿の上に料理がある。 料理の上には何がある…？まあ、ユゲとか、水素とか酸素とか窒素とか二酸化炭素とかアルゴンとかetc 別に、いつもそんなことを考えているわけではない。ただ今、なんとなく思いついてみただけだ。「目に見えないものを信じるなんて、正直不可能なんだよな…」 僕の呟きに、誰も反応しない。 誰も、振り向かない。見向きしない。 部屋にいるのは、母、父、妹の3人＋僕＝4人のはずだ。しかし僕個人の感想としては、1人で居るのと何ら変わらない静けさと虚無さが、4人という数によって構成されていることでの不気味さを感じて仕方がないのだ。 いつもこんな感じ。 だから僕は、夕食の時間が嫌いだ。他人のことなんて知ったこっちゃないとは思うけれど、他人に自分を知られている、認識されているという認識が嫌なんだ。自分は放っておかれている、無視されていると感じていても、存在していることだけは否められない。その認識が、逆に、嫌なのだ。 ケンカした友達と、仲違した友達と、喋りたくもない友達と、一緒に同じ空間にいるような気分。「いやだなぁ。」 またも僕の呟きは無視される。分かっていながらも、呟いてしまう僕もなかなか趣があっていいかもしれない。 母の作った料理―ハンバーグなんとか(正式名称は忘れた)―が、僕の目の前にある。 しばらくして、父、妹そして母も順に席につく。 これで全員、4人が、一応、同じテーブルに座った。ようだった。 僕は儀式のように「いただきます」とだけ、無視されるのを分かっていながら、百も承知で呟いた。 ちなみに、いただきますってのは料理、つまり魚や植物、鳥などの動物から、命をいただきますという感謝の意味を込めて発せられる言葉なので、別に家族が無視したところで、実質何の問題もないのだ。 もし返事をされたら、僕は家族を食べなくちゃならない。 人間を食べるのは、殺すのは、嫌だ。 僕は着々と食を進める。私語は一切ない。みんな、自分の手にもった箸を機械のように動かしている。 僕はやはり、この雰囲気がことごとく嫌だと思った。 人間は嫌いなはずだ。でも、こんな機械的な存在もまた、嫌だ。僕は我ままなようだ。これではモテないな。 こんな冷たい空気の中にいるからこそ、人間の温かみというものを欲してしまう。懐かしんでしまう。 だから、嫌なんだ。 僕は食事の途中で箸を置き「ごちそうさま」の一言だけを残し、キッチンを後にした。今更ながら、キッチンというハイカラな横文字を使って表現するほど、華やかな場所でもない。 そして僕は部屋に戻る。 1回にに居ても、最下階にいても、別にやることはないし、かといって2階でもやることはないのだが、少なくとも1回にいるよりはマシなのだ。マシどころか、格段に心地よい。 1階が大火事なら、2階は大洪水なのさ。溺水もいやだけれど。 部屋に戻ると。 というか、ドアノブを引いてみると。 そこには。 僕の部屋はなかった。 17:41 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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