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2010年05月26日(Wed) 【兆候<４>】 「あれぇ」 困った。 ドアノブを引いたら、僕の部屋がない。ドアの向こうの僕の部屋という空間だけが切り抜かれたような、そんな状態だった。奇麗にすっぽりと。 僕は3,1415秒ほど、あの男のことを連想したが、さすがに奴でも、ほんの1時間足らずで、それも物音一つたてずに僕の部屋を消去できるわけがないだろう。もし奴が、人間なのならば。 とりあえず、過ぎたことを今更どうにかしようとしても仕方ないので、僕は一応驚いたフリをしてから、1階のリビングへと向かった。 多分、リビングには誰もいない。まだ電気をつけていないからはっきりとは分からないが、家族の誰かに僕を驚かすというサプライズを用意しているという人がいない限り、もしくは僕の家族の中に暗闇で過ごすのが好きだという人がいない限りは、誰もいないだろう。 電気を点けてみた。 パッパッ、と音がする。 部屋中まんべんなく照らされたが、やはり誰もいないようだった。僕1人だった。 おおかた、両親＋妹はまだ食事中なのだろう。 どちらにせよ、父は食事が終わったら書斎に行くか散歩に出かけるし、母は何やら家事をするし、妹は自分の部屋でテレビを観るか携帯を弄るかをしているため、リビングに人が来ることは少ないのである。 だから、ここ、リビングの設備は案外貧相である。 テレビは未だにブラウン管、言うまでもなくアナログ。CDラジカセとか。パソコンなんて代物は無い。 まぁ別に、僕は機械大好き人間ではないし、どちらかといえば物は少ないほうがいいと考えるタイプの人間だから、生活への支障はほとんど無い。 原因不明の事態、つまり僕の部屋の消滅が発生してしまったため、僕はこのリビングを寝床にするしかない。別に路上で寝てもいいのだが、寒いし、通りかかった人に変な目で見られるのは、いささか不愉快を感じてしまうだろうから自重しておく。 押入れに仕舞ってあった毛布を適当に取り出し、リビングの真ん中辺りに放り投げた。 「よし、寝床確保」 言って、毛布の上に倒れこむ。ふわふわしている。 さっきの食事の時間とは相反して、僕はこういうのんびりとした時間が好きだ。時間って何だろうと思える、生き急ぐ必要のなさを教えてくれる、こういう時間が。 なんて悟ってる余裕も、今はあまり無い。 さすがに、普段口数の少ない家族達と言えども、僕の部屋が<無くなっている>などと知ったら、泡を吹いてしまう。 僕の部屋の有無が知られることは、しかし幸いなことに確率的にはかなり低い。なぜなら、2階にある部屋は、僕の部屋、妹の部屋、そして物置であり、両親は滅多にやって来ない。 妹は2階へ来はするものの、自分の部屋にしか行かない。無断で僕の部屋に立ち入るなど、ごく自然に考えればまずあり得ない。と、少し安心はしつつも、やはり可能性がゼロでないという確信があるからには、少なからぬ不安を憶えてしまう。 それによくよく考えれば、僕がいまいるここ、リビングの真上は僕の部屋の<あった>場所なのだ。つまり、僕が今、上を見上げると、５～６メートルほど上に、天井が露骨になって見える。僕の部屋は消えているから。こうして見ると、なかなか風情があっていい、とは言えますまい。 いくら2階に行って僕の部屋を確認する可能性が低いからといっても、このリビングに入られて、ちらりとでも上を見られればジエンドなのだ。 そうならない為にも、僕は何か策を打たねばならない。 僕がなぜ、こういう状況に陥っても尚、焦ったり驚いたりびびったりしないかというと、僕は昔から、こういう奇怪な体験に慣れているからだ。 今は詳しくは語れないが、こういうことも珍しくはない。 僕は毛布の上であぐらの態勢になり、目と目との間を指で押さえて考え込む。 うーむ、どうしたものか。 そう思っていた時。 リビングのドアが ガチャリと開いた。 00:52 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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