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2010年05月26日(Wed) 【兆候<５>】 ガチャリ。 ドアが開いた。 開いてしまった。 そのドアの陰から姿を現したのは､そう､僕の妹だった。妹は無表情でこちらにズンズン歩いて来たかと思うと､僕の横を通りすぎ､その際にちらりと毛布に目を遣り､冷蔵庫へと向かった。麦茶が欲しいようだ。 上には､気付いてない､多分。冷蔵庫から麦茶を､棚からコップを取り出した妹は､また同じように僕の横を通りすぎて行き､後ろ手でドアを閉め､リビングを去った。僕は胸を撫で下ろした。無駄な動きの無い妹でよかった。 その時。 ピンポーンと音がした。 嫌な予感。 本日二度目の､嫌な予感がした。 僕は急いで玄関に駆けて行き､ドアを開けた。 本日二度目の的中だった。 ｢やぁ､こんばんは｣ 男。ヒゲ。スーツ。 例の､奴。 ｢どうも…｣ 僕は適当に相槌た。 てかこの人､また明日とか言わなかったか？約束の守れない大人は最低だなぁ。言わないけれど。 ｢もし僕以外の家族の誰かが対応してたら､何て言うつもりだったんです？｣ ｢逃げる｣ ｢ただの悪戯じゃん…｣ 言い逃れる気すら無いようだった。 ｢立ち話も何だからな､上がらせてもらうぞ｣ ｢はぁ､まぁ､あまり目立たないようにして下さいね｣ 相変わらず勝手な人だ。他人を何だと思っているんだろう。子分かな。 自分の部屋に招待したいのは山々だったが､あまりにもスッキリしすぎていて無理なので､仕方なくリビングに入れておくことにした。男は､入ってすぐに､上を見上げた。 ｢…ほぉ､こりゃまた随分天井の高い部屋だな｣ ｢そう見えます？｣ ｢いや､見えない｣ 僕はやはり､この人を疑いたくて仕方がない。 ｢いきなり訪ねてきて､さらにいきなりで悪いが､そういえばまだお前の名前を聞いていなかったな。何て名前なんだ？｣ ｢魑魅魍魎です｣ ｢難しい漢字を使うな｣ やはり二能な人だった。てか､僕のことをいつの間にか<お前>と呼んでいる。まぁいっか､歳上みたいだし。 ｢じゃあ魍魎と呼ばせてもらうとするか｣ ｢名前で呼んでもらえるとは､光栄ですね｣ ｢俺のモットーはフレンドリー(友好的)だからな｣ フレンドリー(友好的)というか､セルフィッシュ(自分勝手)じゃないですか､とは聞かない。 ｢僕からも聞きたいことが３つほどあるんですが｣ ｢あるんですが？｣ ｢聞いて下さい｣ ｢聞くだけ？｣ むかつく人だ。会話文で遊びやがって。 ｢僕は今からあなたに３つばかり質問しますので､あなたはそれらの質問に適切に答えやがって下さい｣ ｢へいへい､そんなムキになるなよ､少年｣ 僕はやっぱり､この人が苦手だ。 ｢まず１つ目ですが､なんであの夜､いきなり僕にあんなことを言って来たんです？｣ ｢あぁあれな。俺あの時夢うつつでよ､何か意味分からないこと言ってたかもしれない｣ ｢本当ですか？｣ ｢大マジさ｣ 冗談とも言えない生ぬるい理由だなぁ。嘘っぽいけど､本人がそう言うならそうなんだろう。 ｢では２つ目ですが｣ ｢うむ｣ ｢なんで僕なんかに､依頼をしようとしたんですか？それも殺人なんて｣ ｢んっとなぁ､まぁ俺も色々あるんよ。殺人ってのは､ちょいハードル高めの依頼なんだけどな。お前って､結構特別な体質なんだよ。なんか昔､妙な体験とか経験したこと､あんの？｣ ｢……まぁ､一応､でも､それで特別な体質なんて…｣ ｢幼年期の時って大事でさ。後々に色々影響してくるのさ。お前はその時から､妙な､力っていうとなんだかカッコイイけど､性質というか特性を持ってるんだよ｣ ｢へぇ､なるほど。そうなんですか｣ なるほどじゃないし､そうなんですかとも思わないけど､これ以上深入りしても信じられる自信がないので､一旦保留。 ｢では最後の質問ですが｣ ｢おうよ｣ 僕は少し間を置いてから､そして口を開いた。 ｢僕の部屋の消滅の原因って､あなたですか？｣ 男は､にやりと皮肉げに笑って見せた。 01:50 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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