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2010年05月26日(Wed) 【兆候<６>】 僕とあの男との邂逅。あれはもしかすると、これからの僕に何か大きな影響を及ぼすのかもしれない。 名前も知らない、年齢もわからない、職業も不明。そんな男が僕に及ぼす影響など知れたもんじゃない。知れてたまるか。 男は笑う。不敵に、笑う。意味ありげに含みありげに、何かを見透かしたような目で、ニヤニヤと笑っている。 僕の質問に対して。 原因は―あなたですか。 「ふふ、少年こと魍魎」 男はようやく口を開く。 もったえぶるように、慎重に。僕は怯えない。震えない。 「で、どうなんです？」 「ふふ、少年。お前はイジメについてどう思う？いじめる方といじめられる方、どっちが悪い？」 「いきなりなんですか。話が逸れてます。まぁ一応答えておきますけど。いじめられる方といじめる方ですか･･･良し悪しは付けにくいですけど、やはりいじめる方じゃないですか？いくら相手がうざくても、放っておけばいいんです。そこで手を出すのがいけないんでしょう。学校の先生もそう言ってましたよ」 「おやおや。似合わず良い子ちゃん気どりかい？お前、こんな言葉を知ってるか？《いじめられる方に原因があって、いじめる方が結果を出す》まぁ確かに、因果関係で表せばそういうことだよな？」 「まぁ確かに。でも、いじめる方にも、いじめたいと思う気持ちという原因があるでしょう？それがなければ、結果には繋がりませんよ。やはり、いじめる方が悪いです」 「お前、昔いじめられてたのか？よほどいじめる方が嫌いなんだな･･･」 「いえ、正義の味方なだけですよ」 「正義ねぇ･･･言っちまえば、いじめる方も１つの正義なんだぜ？ある人物が貫き通そうとする信念、執念。それがいじめる方では、誰かをいじめることなんだろうよ」 「屁理屈染みてますけど、確かにその通りです。新撰組なんてまさにそうですしね。幕府軍と新政府軍の、正義と正義の戦い。いじめは一方的ですけど、正義と正義の対立と言えなくもないですね。で、それが僕の部屋の消滅とどういった関係が？というか、やはり、あなたなんでしょう？」 「どうもその言い方が気に食わんな。原因は俺？馬鹿言ってもらっちゃ困るなぁ。俺はその、いじめの因果関係で言う、結果を出す方だよ。原因は俺への依頼主であり、お前の部屋なんだからな」 「後半がよく分りませんね。依頼主？」 「あぁ、俺も好きでやってんじゃねえんだけどな。ちょっと金のために依頼受けやってんのさ。そういうわけ」 「それで、僕の部屋を削除してほしいという依頼なんですか？随分奇抜な発想をしますね、その人」 「はは、別にお前の部屋を消してストレス発散しようとか、嫌がらせをしようとか、そういう意図じゃあないんだ。」 「それ以外の理由なんて、何かあるんですか？」 「はっ、無けりゃあこんな大業やってねえよ。それもなかなか大そうな理由でよ。俺も聞いたときゃあ驚いたさ。」 「もったえぶらないで教えて下さい。焦らすのも、依頼の一部なんですか？」 「ちげぇよ。」 男は、少々不機嫌そうにしながら、黒スーツの右ポケットに手を突っ込んだ。 乱暴にポケットの中を掻きまわし、何かを掴んだ様子で、手をポケットに突っ込んだままの状態でこちらを向いてニヤつく。 あぁ、やっぱりこの人は焦らすのが好きなんだなぁ。 そしてゆっくりと、ポケットから手を取り出したかと思うと、何やら小さい、サイコロのようなものを親指と人差し指で挟んでいる。 一体全体何の真似だろうか。僕は男の意図が掴めないまま、きょとんと身を置いているしかなかった。 男はすっと立ち上がり、口を開ける。 「これが何だか、分かるかい？」 「やめてください。焦らすのは。そんなものを僕のような素人目で見たって、90％の確率で無機物だろうということくらいしか分りませんよ。」 「はっ、そうかい。」 男は少し残念そうにし、それでも気を取り直したのか、また嫌らしい笑みを浮かべた。 「これは、大麻だ」 男は言う。 これは爆弾だ、とでも言うのかと思ったが、そこまで非現実的な発言を期待した僕が愚かだということが今、明瞭になった。 「大麻ですか。また、何でそんなものをお持ちで？」 「あぁん？お前も人のことを言えないくらい冗談を言う少年だな。それ、本気で言ってるのかい？」 「本気も何も、ただ感想を述べただけでしょう。何か問題でも？」 「大ありだよ。いや、問題しかないね」 男は言う。 「これ、お前の部屋にあったんだぜ？」 男はそして、胸ポケットに手を突っ込み、警察手帳を取り出した。 18:48 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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