| 【携帯HPパーツはChip!!】 | 【枠あり表示】 |
2012年09月22日(Sat) 【 【創作】秋雨よ、蝉時雨よ。 】 降り注ぐ蝉時雨は私の旅立ちを祝福でもしてくれているのだろうか。 「せめて、もう少し静かに見送ることは出来ないのかねえ」 これだと手招きされているようでどうにも心地が悪いよ、と苦笑する私の口を塞ぐように不細工に剥かれた梨が差し出された。 「水物は身体が冷えるからあんまり健康によくないんだよ？」 なんて軽口を叩きながら、よく日焼けした無骨な手からそれを受け取り、囓る。 みずみずしい咀嚼音は、蝉の声に掻き消され。嗚呼、もう全く。 「忌々しいねぇ。元気そうで」 「あいつらも、生きるのに必死なんだろ」 ようやく口を開いたかと思えば、これだ。 「本当に君は昔から虫が好きだよね。この期に及んでまで虫けらの心配だなんて、級友達が君を避けてたのも道理な気がするよ」 「感じたことをそのまま言っているだけだ。それに、虫だって同じ命だ」 軽んじるな。という叱責の言葉。 この部屋で、もう何度聞いただろうか。 わかってはいる。 それでも。 「私は、そういう君の方が私を軽んじている気がして癪なんだがね」 もっと、悲しんで欲しくて。 「性分なんでな」 わかってはいても。 悔しくて。 ごろり、と寝台の上で姿勢を変える。 寝台に面した窓の、カーテンの隙間から差す木漏れ日は、仄かに秋の色を帯びていて。 「嗚呼、せめてこんな五月蠅い奴らではなく、のどかに麗しい音を奏でる鈴虫にでも送られたいね」 秋まで生きられれば、の話だけど。と自嘲的に笑った頬に、手が当てられる。 ふと顔を向けると、申し訳なさそうに目を伏せる幼なじみと目があった。 「俺は、鈴虫にはなれそうもない」 そう言って、そっと頭を撫でるのが、何年ぶりかで、懐かしい。 「喧しい蝉が死んでしまっても、気にも留めないであんなにも綺麗な唄を謡える鈴虫なんかには、なれやしない」 だから、鈴虫に送られたいなら、秋までは…… 「……生きたいねぇ」 そして、極寒の冬の中、共に眠りたい。 それは、蝉が見る真夏の白昼夢。 23:44 ｺﾒﾝﾄ(0)/ﾄﾗﾊﾞ(0) [ｺﾒﾝﾄを書く] 重要なお知らせ@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
ﾌﾞﾛｸﾞ[編集][作成] ひまつぶしめにゅ～ by 凸ﾘｱﾙ Chip!!ﾌﾞﾛｸﾞ作成/ﾎﾑﾍﾟ/ﾒﾙﾎﾞ |