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掃き溜め戦隊くずかごん

2010年08月21日(Sat)
【一番星/1.5次創作注意】

地学と現文。本人的には何でもないつもりだけども……といった感じの閲覧注意。



――――





 ――――星が、見たかった。




 ふと、眩しさに、目を開ける。
 その瞬間視界に入ったのは先程までの空間いっぱいに広がる青空とは打って変わった無機質な灰色をした天井で、それはカラカラと壊れかけた空調が空転するほか何も音らしき音の無い静まり返った部屋の陰鬱さを増長しているように思えた。
 星を奪われたその部屋で、仰向けのまま視線だけで室内の様子を探ると、清潔感を際立たせる白色をした壁面、薄緑色の掲示板、それに貼り付けられた「食事の後は歯を磨こう」なんてモラトリアムを謳歌する高校生に向けてあるのか何なのか、対象年齢のよくわからないポスターが視界に捉えられる。




 もう、何度見たのかも定かではない、それらが。




「…………また、倒れたのか」



 身体を起こすことなく、誰に告げるでもなく、ただ漠然と極自然に抱いたそんな感想を、ぽつり呟く。


 その合間漏れた溜め息に同調するような「ああ」という声も、また、同様に消え入りそうな程小さくて。


 驚きのあまり、急ぎ上体を起こすと、額から何かがずり落ちる感覚。次いで「びしゃっ」という水分を含んだ物質の落下音と、腹部周辺に広がる若干の冷たい感触。


「まだ熱あんだろ」


 大人しく寝とけよ、と入口のドアを閉めながら茶髪の同級生がぶっきらぼうに言葉を放つ。その口調と裏腹、右手に持つ濡れタオルはこの腹部に落ちたタオルを優しくも熱を持つ額に乗せてくれた主が"不良"を自称する彼に他ならぬことを如実に示しているのだが。


「…………ごめん」


 何となく申し訳無くなって謝ってみると、彼は一瞬驚いたような顔をしてみせた後「別に謝ることじゃねぇだろ」なんて言いながら僕の寝ていたベッドに腰掛けた。スチール製のパイプベッドが軋むギィっという音が、何となく悲しく響いて、背中しか見えない彼の表情を語っているようで、いたたまれなくなって僕は逃げるようにまた布団へと横たわる。布越しにプラスチックの感触を主張する安っぽい枕が、そんな僕を、何も言わず受け止めてくれた。



 そして、無音。


 空調も、タイマーが切れたのか動きを止め、外の音も、何一つ入っては来ない。まるで、此処だけ世界が切り取られたようなそんな不安を伴う、無音。


 僕の、嫌いな、無音。


 何かを考えざるを得ない、ただ漠然と過ごす事を許されない、圧迫感のある……そんな感じが、嫌いで。好きになれなくて。雨風の音も感じられない、極端に隔てられた、異空間のような室内は、窮屈で。



 …………彼は、どうなのだろう。

 ふと、それが気になった。

 いつも騒がしげに不良の留学生や姐さん、先生たちと交流している彼は、無音の中、今、何を考えているのだろう。

 そんな疑問が口をつくのに時間はそうかからず。


「ねえ」


 しかし呼び掛けた声はチャイムに掻き消され、疑問の気持ちもまた空に散る。


「何だよ」


 たとえ、聞こえていたとしても。
 既に問い掛ける気持ちはなく。


「…………チャイム、鳴ったよ」


 そんな科白で、お茶を濁す。


「…………元々サボるつもりだったし、いいんだよ」


 彼は僕の方に一瞬目線を向けた後、目を伏せながらそう言った。
 その様は、どこか自分に言い聞かせているような風で。


「…………ごめん」


 何だか、いたたまれなくなる。


「だから、謝ることじゃねえって」


 苦笑、と言うのが一番適しているだろうか、判別のつけにくい不器用な笑みを浮かべながら、今度は真っ直ぐと僕を見て、彼は寝たままの僕の額に濡れタオルを置いてきた。先程までの温いタオルと同じく、水分をまだ存分に含む、それだったのだが、不思議と不快感を抱かなかった。


 冷たさ、も、また。


「…………太陽、みたいだ」
「不良先生からの通達で参りましたっ!!急病人、とはどちらですかっ!?」


 ぽつりと呟いた一言は、そう言って乱雑に扉を開ける轟音に掻き消される。


「会長、五月蝿いですよ。保健室なんですからもっと静かに……おや、あなたはどうして……」
「あーっ!!不良君、またこんな所でサボってましたねっ!!今日という今日は生徒会長の名にかけて自分が……」
「かいちょー、うるさいよー……昇降口まで響いてる」
「あっ!!会長センパ……ってあなた様は遅刻じゃないですかっ!?何を堂々と廊下を歩いて……」
「しょーがないじゃん。何か左側見えにくいから時間わかんなかったんだもん」


 そんな騒がしい会話の中、彼が漏らしたのは「やっぱあのおっさんに声掛けたのは間違いだったか」という嘆息混じりの言葉。


 ああ、やはり、賑やかな輝きの中では決して見えないけれど、彼の本質は、きっと、そうなのだろう。
 一際眩く輝く、あの星と同じで暖かく、不器用な。


「わかったわかった、俺授業出るからさ。会長も授業戻れよ」
「えっ、あ、いや……自分には病人を助けるという急務が……」
「お前が騒がしくしてたら治るもんも治んねえだろ。ほら」



 そう、僕がいつも見に行く、あの星みたいに。




 きっと、いなくなってしまうんだ。






――――

没シーンががあまりにも多すぎた為にジャンク扱いでこちらに。文章力ってこんなに落ちるっけ……と悲しみが止まらない。


01:31
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