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掃き溜め戦隊くずかごん

2010年11月01日(Mon)
【人三化七 よん.302←→303】
「久々に見た気がすんなぁ、アンタ。元気だったか?」
「お陰様で御覧の通りぴんぴんですよ。ご心配おかけして申し訳ありません」
「いやいや、そんな心配なんてしてねぇからさ。あやまんなって、な?」

 なんて言葉を交わしながら漆原さんが文字通り尻尾を振っている様が非常に滑稽、と言ってしまったら終わりのような気がするので黙っておきましょう。僕の精神衛生のためにも。


 どうもこんにちは。神 知克です。下の名前は「ともかつ」と読みます。「知」を持ってして「克」己することを生涯忘れないようにという意味合いが込められた名前らしいです。そんな意味を込めるくらいでしたらどうか過去の人物に肖ってなど理由はどうでもいいから「伸長」とか付けてほしかった、と切に思っていることからもわかるように、全力で成長期を逃しています。18となった現在でも未だその気配は無く、天来の童顔の力も相まって、今日も今日とて年齢不詳街道を突っ走っています。一応大学に入学が決まってはいるのですが。
 ちなみに、目の前で世間話をしている2人はというと……身長170くらいで黒髪、なのでしょうが大部分が弱って茶色い髪をしている方が僕の隣人で、202にお住まいの伊藤 木乃さん。もう一人のよく焼けた筋肉質な上半身を惜しげもなく晒している180は優に越えた身長の持ち主が303にお住まいの漆原 狽斗さんです。もっと端的に表すなら、包帯を巻いている方が伊藤さん、犬耳と尻尾が生えている方が漆原さんなんですが、お二人はお互いの外見など気にすることもなく、当然のようにお話を進めています。なので、僕も敢えてもう突っ込まないことにしたいと思います。これが彼らの標準なのでしょうから。特に、伊藤さんの「まとも」なのですから仕方がありません。それがあの方たちのアイデンティティだとしたら僕に口が出せるはずもないでしょう。そっと、蕎麦を置いて彼らの傍を離れようとした僕の背中に、突然、ぽんっと手が置かれました。


「おやおや、またもやどこかのお子さんがこんな処に迷い込んだのかと思いきや……立派な青年じゃないですか」


 どうしたのですか?こんなところに。などと僕に声を掛けたのは漆原さんには劣りますが、比較的長身ですらっとした体躯をお持ちで、銀色の髪を後ろに流し、なにやら柑橘系の匂いを漂わせ、眼鏡をかけた聡明そうなお方でした。あ、肝心の格好はというと、男性の正装です。たきしーど、です。


「ああ、これですか……いや、すみませんね、こんな格好で。先程外の方に用事がありまして、その関係でこの様な……」
「あ、いえ、全然問題ないんです!気にしないでくださいっ!!」
「気にするな、と言われましてもそんな舐めるような目線を送られてはねぇ……気にせずにはいられませんよ」


 と言って目を細める姿も様になっていて、何でしょう、安堵、というものをここに来てから初めて覚えました。年甲斐もなく泣いてしまいそうです。感涙です。
 が、ただひとつ気になることがありました。


「あの……」
「何でしょう?」
「その……タキシードに不釣り合いなビニール袋は何ですか?」
「ああ、これですか?」


 と、彼はさっと右手に携えていた白いビニール袋を持ち上げました。中には何やら重めの物が入っているようで、がさがさという特有の音はあまり響きませんでした。にもかかわらず。


「今の音……?浦戸っ!!浦戸が帰ってきたのかっ!?」


 どこだ、どこにいるっ!!などと叫びながら漆原さんが辺りを見回します。先程の惨劇を思い出し、僕は小さく悲鳴を上げました。そんな僕を守るように、銀髪の彼は前に出ます。


「漆原君、落ち着いてください。私はここにいますよ」
「浦戸っ!!」


 テメェどこ行ってやがった!などと吠えながら漆原さんが突撃するのを、それはもう慣れた様子で浦戸さんはひらりと躱します。まあ、つまり僕が巻き込まれてしまう形になるのですが。


「やだなぁ、漆原君。ちゃんと私出掛けてくるからお留守番よろしくお願いします、って頼んだじゃないですか」
「あれから何日経ってると思ってる!テメェ、オレの飯買いに行ったんだろ!」
「あれ、そうでしたっけ?」


 その発言に顔面蒼白と化した漆原さんに向け、ウラド、と呼ばれた方は「勿論冗談ですけどね」とビニール袋を見せながら微笑んでみせました。その仕草を見て漆原さんの表情がぱーっと明るくなります。無論、高速で左右に揺れ動く尻尾もオプションで。


「浦戸……」


 逆に真っ暗なのは木乃さんの方でした。木乃さんは、先程までの漆原さんのように、何かに怯えた様子で、真っ白な(包帯で巻かれた)顔を銀髪の方に向けていました。


「目上の人には『さん』をつけて呼ぶように習いませんでしたかね?」
「……浦戸、お前、何をしてきた」
「ああ、この袋の中身のことを知りたいのですか?」


 今日の朝刊辺りにあるんじゃないですか、と何のことだかわかりませんが余裕を崩すことなく呟いたその姿に対し、木乃さんは拳を握りしめ、立っているのもやっとなのではないかという程に震えています。寒いのでしょうか。あんなに着込んでいるのに。


「あの……」
「ああ、そういえば……どうも、自己紹介が遅れて申し訳ありません。私、302に住んでおります浦戸、下は「紅」、風呂の「呂」、亜細亜の「亜」で「クロア」と申します。以後お見知りおきを」
「あ、はいご丁寧にありがとうございます!僕は神 知克と申します。つい先程こちらのアパートに引っ越してきて……あ、これ引っ越し蕎麦です」
「おい、浦戸!そば、って何だっ!?」


 と、割り込んできた漆原さんに浦戸さんが「おすわり」と言います。まんま犬です。


「お蕎麦、というのは食べ物ですよ」
「食べ物!食べ物かっ!!食えるのか?俺、食えるのか!?っていうか、オレ腹減ったって言ってるじゃねぇか!早くその飯を寄こせよ!」


 と、お座りをさせられたままの漆原さんが唸ると、浦戸さんは微笑みながら手に持っていた袋から、とても丁重な手つきでその中身を取り出します。その様子を見ていた木乃さんが不愉快そうに目の上の辺りを顰めました。


「お嫌いですか?」
「お前がな」


 不愉快さを全面に押し出した答えを聞き、浦戸さんはとても愉快そうに声を立てて笑いながら「ご安心ください。これは私の食べ残しじゃありませんよ」とよく理解できない言葉を補足しながら手に持っていた塊を宙に放りました。すかさず、漆原さんがそれに飛びつき、咥えます。犬ほどの大きさのモノがやれば「かっこいい」とかいう感想でも抱くのでしょうが、ここまで巨大な体躯の方にやられると正直恐怖しか湧き上がる物はありません。いや、まあ、一心不乱に噛み付いている姿は中々にかわいいのですが。それが生肉でさえなければ。


「先程も木乃君に言いましたけど、それ人肉じゃありませんから。安心してくださいね」
「は、はあ……」
「……もう少し言い方に気を遣ったらどうだ、浦戸」
「朝刊に挟まれてた今日の特売品和牛肩ロースです」


 テメェまさかセールまで待ってたのか!!と叫ぶ漆原さんの尻尾がぶんぶんと音を立ててしまうほど揺れているのはさておき、浦戸さんの引っ掛かるセリフもさておき、一番に浮かんだ疑問を投げかけてみます。


「ところで、なんで漆原さんはご飯を食べられずにいたのですか……?」
「ああ、それは籠城戦の真っ最中だったからですよ」
「籠城……ですか?」
「おい、浦戸。余計なこと言うんじゃねぇぞ!」
「漆原君がそう言うならば仕方ありませんね……じゃあ、行動で示してくださいね」


 なんて言った浦戸さんの笑顔はこれまでに無いほど喜色に満ちていて――生肉を持って漆原さんの部屋に入っていくのの何が楽しいのかはわかりませんが――なんだか見ているこちらまでほのぼのとした気分になれれば良かったのですが、おすわりのまま信じられない、といった様子で目を見開いている漆原さんを見る限りそんなことではないのでしょう。嗚呼、しかし。


「よし」


 部屋から出てきた浦戸さんにそう言われて、すぐに駆けだしてしまうのは犬の性なのでしょうか。ちらりと中を覗うと、凹んだ鉄製の扉の向こうにもう一個、僕の部屋にはついていないもうひとつの堅牢そうな鉄扉を開けるのに苦戦している漆原さんの姿が見えました。が、それもすぐに凹んだ鉄扉に遮られます。


「目の毒ですから、やめた方がいいと思いますよ?」


 そう言ってさり気なく漆原さんを閉じ込めたのは浦戸さんで……木乃さんが特にそれを止め立てしないのは別に浦戸さんを敬っているからでも何でもなく、ただ単に無言の同意なのだと思うのですが。とりあえずそんなことを考えている間に漆原さんの部屋がドタバタと騒がしくなります。浦戸さんが「ああ、せっかく閉じ込めたのに開けてしまったんですねぇ」なんて言うのが空恐ろしく、僕は木乃さんの腕に縋り付きます。その刹那、轟音を立てて、鉄製のドアが吹き飛びます。浦戸さんがにこにこと笑顔を崩すことなく「嗚呼、またですか。粗暴な方が隣人だと困りますね」なんて余裕綽々に言う辺りは彼本来の性質なのか、それとも慣れなのか考えるのはとりあえずやめにしたいと思いました。頭にドアの破片当たったし。


23:32
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