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掃き溜め戦隊くずかごん

2011年06月02日(Thu)
【ショウシセンサバンベツ】


 四足歩行の猿が言う。



「汝、我を嗤うこと無かれ」

「笑いませんよ」



 そんな言葉を言い切るか、言い切らないかという内に猿が笑い出す。不愉快そうな目付きで、しかしながら楽しそうな声色で。


「成る程。いやはや、成る程」
「……不公平じゃないですか?」
「失礼。いやしかし汝の口からそのような科白が聞けるなどとは遠く考えが及ばず」


 よもや其の口で不公平などと曰うとは、と猿は嘲るような口調で言った。


「汝は何故我と斯様な契りを?」
「…………それが何か大事なんですか?」
「答えられぬならば、我が代わりに答えてやろう」



 言われたから、に過ぎないのだろう?



「それが悪いことなんですか?」
「笑止、笑止」


 猿はまた、喉を鳴らす。そんな愉快そうな音色が、耳障りで。


「不快になる、と云われぬ迄気が付けない浅はかさ。結構」
「それすらが不快だとでも?」
「言葉の真意を見抜けない稚拙さも結構」


 四足歩行の猿が、見上げて来る。その目を直視することは、何故か、本能が拒否した。


「よく視ろ小僧」


 猿が「二本の脚で」すっくと立ち上がり、両の手で私の顔を掴む。



「そして再度其の使えぬ頭で考えてみるがいい」



 何故、我を嗤わぬと契ったのか。



「……卑怯なんじゃないですか。騙すなんて」
「『卑怯』か。笑止、笑止」


 そう言う猿は、今度こそ笑ってはおらず。



「まだ解らぬのか、この」



 猿が。



「私は」


 猿ではない。


 その一言が、紡げず。



「漸く気が付いたか」
「…………何にだ」
「汝が、契った理由よ」



 私は首を振る。頭に浮かんだ考えを、振り払うように。



「わからないな」
「解りたくないのだろう?」


 理解してしまうと、不都合があるのだろう?と、猿が微笑む。


「だが我は汝に敢えて言わせてもらおう」


 私は


「汝は」


 耳を塞ごうとした


「我が『    』だから、嗤わぬのだろう?」



 僅かな抵抗も微かに間に合わず。



「汝が契ったのだ」



 我を、嗤うこと無かれ。



 猿は、去る。


 二足歩行で。





 私も、仕事に向かうことにする。




 何、元来これは驚くべきことではない。これさえも日常なのだ。





23:53
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